3-34.昭和初期の薬 3 養生訓  


前頁及び前々頁のチラシに掲載された食い合わせですが、これは江戸時代の学者である貝原益軒が執筆した【養生訓】に記載されていることがらが多くあります。

貝原益軒は寛永7年(1630)生まれで、この【養生訓】は83歳の頃(1712)に自らの経験を踏まえて執筆したと言われています。
ということは、今から300年前と言うことになります。
ご年配の方々などは実際に読まれたり、聞いた方も多いと思いますが、内容は、健康な体を保つにはどうすれば良いか?と言うような、今で言う健康ハウツー本です。
江戸時代に発行されて以降この養生訓はベストセラーとなり、現在もそのままの教えが多数販売され続けています。
300年間にわたって読まれているというこの【養生訓】はまさにベストセラー中のベストセラーと言えるでしょう。

そして下は昭和6年に発行され、昭和8年に第11版として出版された【養生訓】です。



定価は1円となっていますが、大正15年頃から昭和初期の円本ブームと重なっての1円だったのでしょうか?
因みに昭和6年の山手線の初乗り料金は10銭で、カレーライスが25銭という時代です。

さてこの【養生訓】は

第1巻 総論 上
人生第一の大事
人の身は、父母を本とし、天地を初とす。天地父母のめぐみをうけて生まれ、又、養はれたるわが身なれば、わが私の物にあらず。天地のみたまもの、父母の残せる身なれば、つつしんでよく養ひて、そこなひやぶらず、天年を長くたもつべし。是天地父母につかへ奉る孝の本なり。

という件から始まります。
個人的に訳すると次のような文章でしょうか・・・
自分の身は父母そして天地自然のさまざまなものから生まれている。
父母や天地自然にに養われている身であって、自分自身のものではない。
父母や天地自然が宿した身だからこそ、父母や自然に対して感謝の念をもち、長寿を全うするべきである。
これこそが、父母及び天地自然に対しての感謝の現れである。

そして文中に、前途チラシの食い合わせの記載がありました。
同食の禁忌多し。其の要なるをこヽに記す
猪肉に、生薑(しょうが)、蕎麦、胡すい、炊豆、梅、牛肉、鹿肉、鼈(すっぽん)、鶴、鶉(うずら)をいむ
牛肉に、黍(きび)、韮、生薑(しょうが)、栗子をいむ
兎肉に、生薑(しょうが)、橘皮、芥子(からし)、鶏、鹿、獺(かわうそ)
鹿に、生菜、鶏、雉、鰕をいむ
鶏肉と鶏子とに、芥子(からし)、蒜(にんにく)、生葱、糯米、李子(すもも)、魚汁、鯉魚、兎、獺(かわうそ)、鼈(すっぽん)、雉を忌む
雉肉に、蕎麦、木耳(きくらげ)、胡桃、鮒、鮎魚をいむ
野鴨に、胡桃、木耳(きくらげ)をいむ
鴨子に、李子、鼈(すっぽん)肉
雀肉(すずめ)に、醤(ひしお)
魚酢に、麦醤(むぎひしお)、蒜(にんにく)、緑豆
鼈(すっぽん)肉に、芥子(からし)菜、桃子(もも)鴨(あひる)肉
蟹に柿、橘、棗(なつめ)
李子に蜜を忌
橙、橘に獺(かわうそ)肉
枇杷に熱麪
楊梅(やまもも)に生葱
諸瓜に油餅
黍(きび)米に蜜
乾筍(かんじゅん)に砂糖
紫蘇茎葉と鯉魚
草石蠶(ちょうろぎ)と諸魚
魚鱠(なます)と瓜、冷水
菜瓜と魚鱠と一にすべからず
鮓肉に髪有るは人を害す
麦醤(むぎひしお)、蜂蜜と同食すべからず
越瓜(しろうり)と鮓肉
酒後に茶を飲べからず腎をやぶる
酒後芥子(からし)及辛き物を食へば筋骨を緩くす
茶と榧(かや)と同時に食へば、身重し

これらを見るとさまざまな食い合わせがあった事が判りますが、中には獺(かわうそ)や鹿といった文字も見えます。
草石蠶(ちょうろぎ)は福神漬け等に入っている、ミシュランのマスコットのようなものです。
榧(かや)とは榧の実のことと思われますが、現在も漢方薬として知られています。
麦醤とは現在の白醤油の原型とも言われていますが大豆ではなく麦から作った醤油のようなものと思われます。
李子醤はすももで作る調味料なのでしょうか?



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