この朝午前八時、出陣学徒東京帝大以下都下、神奈川、千葉、埼玉縣下七十七校○○名は執銃、帯剣、巻脚絆の武装も颯爽と神宮外苑の落葉を踏んで、それぞれ所定の位置に集結、送る学徒百七校六万五千名は早くも観客席を埋め尽くした。 |
午前九時二十分、戸山学校軍楽隊の指揮棒一閃、心も躍る観兵式行進曲の音律が湧き上がって『分列に前へツ』の号令が高らかに響いた、大地を踏みしめる波のような歩調が聞こえる、この時会場内十万の聲はひそと静まる、見よ、時計台の下、あの白い清楚な帝大の校旗が秋風を仰いで現れた、纉ぐ剣光帽影『ワァツ』といふ歓声、出陣学徒部隊いまぞ進む、『頭ァー右ッ』眼が一斉に壇上の岡部文部相を仰いだ、 |
幾十、幾百、幾千の足が進んでくる、この足やがてジャングルを踏み、この脛やがて敵前渡河の水を走るのだ、拍手、拍手、歓声、歓声、十万の眼からみんな涙が流れた、涙を流しながら手を拍ち帽を振った、女子学徒集団には真白なハンケチの波のように、花のように飛んでいる、学徒部隊はいつしか場内に溢れ、剣光はすすき原のやうに輝いた、十時十分分列式は終わる、津波のひいたやうな静けさ、やがて喇叭『君が代』が高らかに響いて。宮城遥拝、君が代奉唱… |